国庫補助事業の話(2):三段組版
農村整備事業の計画打合せで出張した市の会議室に入ったら、制服を着た20人ばかりの消防職員の方が集まっていた。市街地から外れた農村での消火活動に農業用水路を利用した40か所以上の防火水槽を作りたいとのことでもあった。確かに井戸や簡易水道では初期消火もままならないのだ。しかし、農業用水路は土地改良財産で土地改良法の他目的使用の許可が必要で、農業用水路にも防火水槽にも技術基準がありその調整もある。農村の総合的な整備のモデルを目指す立場から色々な事業を組み合わせた計画が望ましいと思っていたので考え込んでしまった。
農村整備事業は前回(本コラムNo.325)説明したように農業用と生活用インフラの結合供給を狙った事業だが、兼用のインフラ整備に必要な制度的・技術的調整は簡単ではない。「何でもできる」という総合事業には、市町村から都道府県・地方農政局を経由して様々な要望が本省に上がってくる。そこで、全国7つの地方農政局の担当者を、道路関係は○○局、公園関係は××局、防災施設は△△局といった形で分担して、どの局の担当者も道路関係で問題があれば○○局担当者と相談するようにした。私の労力軽減にもなったが、効率的・専門的に調整でき地方局担当者の意欲向上にもなった。
数か月が経ち、群馬県の伊香保温泉に全地方局担当者を集め2泊3日で調整会議を開催した。温泉で休養を取るどころでなく、朝9時から夜の遅くまで、3日間を旅館の地下会議室で過ごした。私は理由の付く限り地元の意向(要望)を大切にしたかった(本コラムNo. 33「サーベル行政」とNo. 80「美しい誤解」を参照)。技術基準の調整方法や補助対象の可否などを話し合った。山頂にある集落の神社へ行く山道の舗装は途中の果樹園にも利用されれば補助対象になるといった具合に議論を進めた。
国庫補助事業の要綱やその解釈を記した要領は抽象的に書かれていので、細かい運用は担当者に委ねられる。そこで、ページの一番左に要綱、その右に関連要領、一番右に伊香保会議の成果(採択事例とその理由など)を記したガリ版刷りの「三段組版」を都道府県に配布した。ところが各地の会計検査院の検査で三段組版が使われ私が問われる立場になった。次年度には抽象的な表現に改めた改訂版を配付したが旧版の海賊版が広く流通した。印刷物の怖さを知ったが、国庫補助事業は廃止されても公金を使う以上何らかの基準は必要である。それを多忙な市町村職員の方に任せることも酷なように思える。
(執筆:元杉昭男)
