日々是総合政策No.133

民主主義のソーシャルデザイン:危機時のリーダーシップ

 東日本大震災から9年が経過した。今年も「3.11」を迎える5日前に、東京電力福島原子力発電所事故を題材とした映画「Fukushima 50」が公開された。門田隆将氏のノンフィクション書籍『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(PHP研究所刊、文庫本は角川文庫)ノンフィクション書籍を原作とし、映画化された作品である。鑑賞中、私は3度、涙が溢れてきた。多くのことを考えさせ、胸の中に込み上げてくる映画であった。
 物語にはもちろん「総理大臣」も登場する。このモデルは、当時の菅直人首相であることは疑いようのない事実だ。そして、菅首相が3月12日の早朝に福島第一原発を視察したことも、3月15日の早朝に東京電力本店を訪れたことも歴史に記録される事実である。
 現代政治史において、これまでも何人かのリーダーが国家的な緊急事態に直面してきた。阪神・淡路大震災の発生時、当時の村山富市首相は、小里貞利氏を震災対策担当大臣に任命し、現場での指揮・判断を任せたと言われている。菅元首相は自ら福島原発に出掛けた。危機状況において、国のリーダーはどのように行動すべきなのであろうか。これは、現在の新型コロナウイルス感染症の拡大に対応する安倍晋三首相も、「歴史の法廷」で評価されることになる。
 米国のドナルド・トランプ大統領は、新型コロナウイルス感染症に対峙する自身を「戦時の大統領」と呼んだ。米国内の各州では「非常事態宣言」が出され、カリフォルニア州では「外出禁止令」が出された。欧州では、イタリア、スペイン、フランス、ドイツで「オーバーシュート(爆発的患者急増)」が起きている状態であり、外出や移動の禁止、生活必需品以外の店舗を閉鎖するなどの「ロックダウン」の措置が採られ始めている。
 日本国内を見てみると、3月19日に北海道知事は緊急事態宣言を終了させた。一方、大阪府知事は、3月20日からの3連休において、大阪府と兵庫県との往来の自粛を呼びかけた。都市部での感染拡大を抑制することができるのか、もしくはオーバーシュートが起きるのか、予断が許さない状況が続いている。まさに、首相のリーダーシップが問われている。
 危機時にどれだけの権限をリーダーに移譲するのか、これも民主主義の大きな論点である。

(執筆:矢尾板俊平)