日々是総合政策No.267

政策問答(1)

 総合的に政策を考えるために、次のような政策課題に関する問いかけに対して、皆さんにはご自身で回答してみていただきたいと思います(注)。

 (1) いま最も重要な政策課題は何か
 (2) その政策課題を抱える社会はどのような社会か
 (3) その政策課題に関係する主体は誰か
 (4) その政策課題を引起こす諸要因は何か
 (5) その政策課題を放置するとどうなるのか
 (6) その政策課題をどのようなデータで把握するのか     
 (7) その政策課題と諸要因を関連づけるモデルや理論は何か
 (8) 比較するときの価値判断基準は何か
 (9) その政策課題を解決するための最善の政策手段は何か
 (10) その政策課題を解決するために社会が犠牲にしなければならないものは何か
 (11) その政策課題と最も密接に関連する政策課題は何か
 (12) 誰がその政策課題を解決すべきなのか
 (13) あなたは、その政策課題の解決について何ができるのか

 ここでいう政策課題とは、社会問題と言い換えてもいいでしょう。政策とは「より良い社会をめざす人間の営み」で、社会とは「制度化された様式の中で、相互に関係し合い共同に活動している人間の集団」と解するならば、政策課題は「より良い社会をめざす人間の営み」に係る課題で、社会が抱える問題となります。
 これから、(1)から(13)までの問いかけに関して順番に、皆さんが回答するときに役立つようなヒントを示していきます。まず、(1) いま最も重要な政策課題は何かについて、皆さんは何か一つ具体的な社会問題を挙げてみてください。「いま」の時点が現在だとすると、なぜ、その社会問題が現時点で最も重要だと考えたのでしょうか。例えば、地球温暖化問題や子どもの貧困問題や新型コロナウイルス感染症拡大による諸問題などの社会問題を挙げた人もいるでしょう。そうした社会問題は、皆さんが実際にご自分で直面し実感した問題なのでしょうか、あるいはソーシャルメディアを含めたマスメディアが取り上げた問題なのでしょうか。マスメディアが取り上げた社会問題だとしても、マスメディアが取り上げる多数の社会問題の中から、なぜ皆さんは一つの特定の社会問題を最も重要な社会問題として、回答したのでしょうか。
 こうしたことを根本から考えることが、総合的に政策を考える総合政策学の醍醐味なのです。

(注)本稿はじめ次回以降の政策問答シリーズのエッセイは、横山彰(2001)「地方財政の政策課題を考える」『地方財政』40(3):4-8、横山彰(2009)「総合政策の新たな地平」中央大学総合政策学部編『新たな「政策と文化の融合」:総合政策の挑戦』中央大学出版部:1-14など筆者の著作に依拠しています。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.266

再考:純資産税 (3)-資産所得税との比較

 今回は純資産税と資産所得税を比較します。資産所得税には二つのタイプがあります。まず、実際の資産収益(利子・配当など)に課税する方式です。この実際タイプは日本など多くの国で採用されています。もう一つは、政府が定めた、みなし収益率(国債等の安全資産の収益率)に資産価値を乗じた「みなし収益」に課税します。その例としてオランダの税制ボックス3が有名です(注1を参照)。 以下、このタイプを、みなし資産所得税と記します。
 注1と注2が述べるように、純資産税は、みなし資産所得税の一種です。負債控除後の資産価値をW、みなし収益率をr、資産所得税率をtk、純資産税率をtw とし、また、税率はWに関して一定とします。投資家の税負担は 
 みなし資産所得税=tk ×r×W
 純資産税 =tw×W
なので、tw= tk ×r であれば両税の負担額が等しくなります。つまり、税率twの純資産税は、税率tk=tw/rの、みなし資産所得税に他なりません。
 みなし資産所得税は政府が収益率を設定し、それをすべての投資家に適用する税制です。よって、純資産税も、各投資家が得た実際の収益とは関わりなく課税します。結局、Wの等しい投資家であれば、すべて同額の税負担(twW)となります。
 しかし、同額のWでも、株式保有者と定期預金保有者とでは、実際の資産収益が異なるでしょう。純資産税では実際に高い収益を得る投資家ほど、その収益に占める税負担の割合が低くなります。つまり、実際の収益に関して逆進的となります。
 他方、日本などで採用されている実際タイプの資産所得税では、実際の収益率をrとすると、
 実際タイプの資産所得税=tk×r×W
となります。rが投資家によって異なることに注意して下さい。この税制では、実際の収益額r×Wに対する税負担割合は、どの投資家にとってもtk となりますね。


1.Cnossen, S.and L.Bovenverg [2000] “Fundamental Tax Reform in the
Netherlands”,CESifo Working Paper,No.342,pp.1-19.
2.Scheuer,F,and J.Slemlod [2021]“Taxing Our Wealth” Journal of Economic Perspectives,Vol.35,pp.207–230.

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策No.265

ウクライナのこと

 ロシアのウクライナ侵略は内戦とも国境紛争とも違う。汎ゲルマン主義を掲げたヒットラーによるオーストリアの併合やチェコ・スロバキアの保護国化のように、汎スラブ主義を掲げたロシアの主権国家への侵略である。プーチン氏はロシア正教を信奉し、ソ連時代のスターリンを評価し、最近ではピョートル大帝の栄光を称え、ソ連やロシア帝国の領土を取り戻そうとする。日々の夥しい犠牲者の下で、専門家でもない者が罪悪感を伴わずに軽率に語れないが、疑問点だけは述べておきたい。
 第一に、西欧先進国の政治指導者が持っていた「どんな国でも経済発展すれば必然的に民主主義国になる」という信念である。中国は共産党の一党独裁のまま、経済大国となり軍事大国になり、ロシアは共産党一党独裁制も社会主義もなくなったが、専制的な政治体制(権威主義)になった。経済的発展と政治体制は無関係なのか。
 第二に、ロシアは共産党一党独裁制から多党制に基づく選挙制度に移行したが、プーチン氏率いる与党の一党優位政党制になり、野党政治家を露骨に排除している。第一次世界大戦後のワイマール共和国の民主主義体制下で国民的支持を得てナチス体制が出現した状況を想起させる。形式上の民主主義制度だけでは民主主義は守れないのか。
 第三に、「ロシア人として罪の意識を感じます」、「無関心でいたことをお詫びします」、「戦争犯罪の共犯者になってしまっている気がします」といった人々の発言がTV報道にあった。反戦を思う人々の心情として理解できるが、政府と人々の社会を分離して考える近代西欧の考えとズレがあるように思える。「ロシア人宿泊お断り」とした日本のホテルもあったが、何かアジア的な感じがする。政府指導者の偏狭的な愛国心が人々心情と一体化する恐れはないか。
 第四に、現代の軍事力は高額な兵器や兵員を保持できる経済力と、高度な科学技術を駆使した軍事技術と兵器製造に必要なサプライチェーンの掌握が必要である。この点で想定敵国に劣るとすればNATOのような軍事同盟で補うしかない。兵器としてのドローンや無人機の使用の延長上に、ロボット同士の戦闘で決着がつく日が来るのか。
 世界史的な出来事に同時代人として向き合いたい。

(執筆:元杉昭男)

日々是総合政策No.264

再考:純資産税 (2)-課税資産

 今回は純資産税の課税資産をとりあげます。純資産税は、潜在的には金融資産や不動産をはじめ、車・宝石など幅広い資産に課税することが可能です。この点、不動産だけに課税する固定資産税と異なっています。富裕者の資産課税を目指すなら、非課税資産や課税優遇資産(低率で課税される資産)を少なくし、課税資産を包括的に設定するのが望ましいでしょう。非課税資産などがあると、富裕者の税負担回避(課税資産の一部を非課税資産に移すこと)を誘発するからです。一般に、豊富な資産を持つ富裕者ほど、柔軟な資産選択が可能になります。
 注1によると、2017年時点での純資産税採用国(フランス・ノルウェー・スイス・スペイン) 7カ国と、かつての採用国7カ国(ドイツ・フィンランド・スウェーデン等)のうち、オーストリア以外の10カ国が、多くの非課税資産・課税優遇資産を設定しています(注1,p.84,表4.3より)。たとえば、林や森、住宅・年金・芸術作品・家具・農地・非公開企業の株式等々が、非課税或いは優遇課税の扱いを受けています。  
 純資産税の課税には、資産の市場価値を測定しなければなりません。しかし、相続で得た絵画等の価値は売却するまで確定しません。年金については、退職後の生活保障という社会政策的な配慮が非課税などの主な理由でしょう。住宅に対する課税優遇の一つの理由は、住宅の保有が中間層にも多いからです。さらに、農地・非公開企業(株式を一般に公開しない企業)の株式非課税は、個人による事業活動の支援が主な狙いです。
 たとえば、スウェーデンは、富裕者が多く所有する非公開企業の株式を非課税にして、他方、住宅の課税価値を厳しくその市場価値の75%としたため、純資産税が逆進的負担(資産額に占める税負担の割合が、資産額の多い富裕者ほど低くなること)となり、純資産税に対する国民の批判を招きました(注2より)。


1.OECD [2018],The Role and Design of Net Wealth Taxes in the OECD.
2.Waldenström,D [2018],Inheritance and Wealth Taxation in Sweden”, ifo DICE Report,Vol.16,pp.8-12.

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策No.263

再考:純資産税 (1)

 今回から純資産税(Net Wealth Tax)をとりあげます。この税は、個人や家計の純資産、すなわち、金融資産(預金や株式)や不動産(住宅や土地)等の資産合計から、負債(住宅ローン等)を差し引いた金額に課税します。純資産税は、資産が生み出した収益(利子や配当)に課税する資産所得税と異なり、資産価値そのものに課税します。なお、純資産税は富裕者への課税強化を目指すことが多いので、富裕税とも呼ばれます。
 最近、同税に対する期待が高まっています。たとえば、先の米国大統領選挙では、民主党の候補者の一人であったSander氏が、8%の純資産税導入を唱えました(注1,p.209より)。
 純資産税に対する期待の背景には、富裕者への著しい資産集中があります。下の表は純資産を所有している家計を、純資産額の多い順に並べ、その上位1%又は10%に属する家計が、国全体の純資産の何%を所有しているかを示します。OECDの27カ国を調査したものです。なかでも米国は、その上位1%の家計が米国の全資産の41%を保有しています。米国の二つの値は27カ国中のトップです。なお、米国は純資産税の経験がありません。ちなみに、日本の値はともに26位です。

表 富裕家計の資産シェア(%)
日米は2019年、ノルウェーは2018年、英独仏は2017年の値。
(出所)注2より作成。

 他方で、欧州では1990年には12カ国が純資産税を採用していましたが、現在(2018年以降)は、ノルウェーとスイス、スペインだけです。つまり、ドイツ、スウェーデン、オランダ、フランス、など計9カ国が純資産税を廃止したわけです(注1,p.213,表1より)。
 資産分布の格差是正を図る上で、純資産税は税制の中で最も適切な手段なのか?-この問を念頭において、次回から純資産税の特徴と実態の一端を紹介します。


1.Scheuer,F,andJ.Slemlod[2021],”Taxing Our Wealth” Journal of Economic Perspectives,Vol.35,pp.207–230.
2.OECD URL
https://stats.oecd.org/Index.aspx?DatasetCode=IDD
(最終アクセス 2022年5月23日)

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策No.262

男と女はなおつらい

 元部下の女性の結婚式に招待された。コロナ禍といい、ウクライナ情勢といい、世界史的な事件が続く時代に、この若いカップルはどんな生活を送り、どんな生き方をするのだろうか。披露宴の最中、何故か、役所勤めを始めた頃にテレビで流行っていた“必殺シリーズ”の小林旭が歌う主題歌「夢ん中」をふと思い出した。「男もつらいし、女もつらい、男と女はなおつらい」。素直に読めば心情的によく分かる歌詞だが、分析的に考えると何か変だ。
 人にとって辛いことと幸せな(楽しい)ことがあって、マイナスとプラスで表すとしよう。仮に「男も辛い」を(-2)、同様に女も(-2)としよう。「男と女」が足し算で得られるとすれば、(-2)+(-2)=-4となる。そうか、マイナスを単に持ち寄れば一人の辛さよりももっと辛くなる。例えば、同じ屋根の下で、男が会社でパワハラを受け、女は姑からいびられていて、愚痴を言い合い夫婦けんかに発展する。でも、そうなら「男と女」を解消して男だけ女だけにすれば(-2)のままでより良いのではないか。
 これを掛け算に置換えると、(-2)×(-2)=+4となって、大きな幸せに発展する。マイナス×マイナス=プラスの証明を数学の授業で習ったが、どうもしっくり来ない。先の例なら、お互いに慰め合ったり励まし合ったりするとプラスになることか。もっとも、結婚などの同じテーマで、男が何らかの理由で女と結婚できず、女も同様にできないとすると、男と女は昔なら心中か駆け落ちしないとプラスにならない。今の時代なら何とでもなるようにも思える。
 ところで、彼女の出身地である千葉県成田市にある新勝寺に初詣に行くと、沢山の老若男女が辛い事や願い事を持って手を合わせている。そんな人々の背中を思い出しながら、人々のマイナスを積み重ねると、足し算しても膨大だし、掛け算でもプラスになったりマイナスになったり不安定だ。人々の心の揺らぎがどのように社会全体に反映されるのだろうか。国などの政策はそこまで背負いきれるだろうか。
 そうこう思い浮かべていると披露宴も終わりに近づいた。「それでいいのさ それでいいんだよ 逢うも別れも 夢ん中」 阿久悠の歌詞は夢の中で終わる。

(執筆:元杉昭男)

日々是総合政策No.261

家事労働を考える(6)-家事労賃控除について(続)

 今回は、スウェーデンの家事労賃控除(以下、RUTと略称)の実態を紹介し、日本への適用方法を考えます。RUTは、家事サービスを業者から購入すれば、その価格の労賃部分の50%を、税額控除というかたちで補助するものです(本コラムNo.259参照)。
 まず、全家計(100%)を可処分所得(税引き所得+社会保障給付)により、10のグループに区分します。第10分位は、全家計を可処分所得の多い順に並べたとき、上位10%に属する家計です。これに次ぐ10%の家計を第9分位と呼びます。
 注1(p.25)によると2017年には、第9分位と第10分位の家計が、RUTの税額控除総額の55%を得ています。税額控除を得るとはいえ、価格の50%以上は自己負担です。家事サービスは正常財(所得の増加にともない需要が増加する財)なので、可処分所得の多い家計ほどRUTを多く利用するのでしょう。
 次に、税額控除総額の57%が、子供(17歳以下)のいない家計に支給されています(注1,p.27)。この点につき、筆者は、家事時間の長い、子供のいる家計を中心に税額控除を配分する方が良いと考えます。
 以上の結果が生じるのは、家計単位でなく個人単位で税額控除を与え、かつ、18歳以上のすべての人にRUT利用を認めるからです。「全個人型」政策です。これは、高負担国家なればこそ実施できる政策でしょう。
 日本の財政事情や所得税負担の現状を考慮すると、家事サービス支援については、「全個人型」より適用者限定型が望ましい。たとえば、子育て期の家計に限定して、家事代行サービスのクーポン券を与える方式が考えられます。なお、注2(68頁)は「会社による、子育て期の家事サービス利用支援」の発展に期待を寄せています。ともかく、適用者限定型の具体的なデザインの検討が求められます。

(注1) Regeringens skrivelse (2019) Riksrevisionens rapport om
Rutavdraget, SKr. 2019/20:177,Bilaga 1.
(注2) 武田 佳奈(2017)「家事支援サービスの現状」日本労働研究雑誌,No.689,
62-68頁。

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策No.260

自然災害とその復興課題について(5)

 災害復興の人手不足を解消するという意味では、技術職員を様々な委託で補充することも考えられます。水道事業は広域連携を通じて危機管理や防災を行ったとしても、技術者が足りないケースもあります。特に、過疎地域では熟練技術者が不足していることから、破損した管路の復旧が遅れるケースも目立ちます。今後は熟練の技術をいかに継承するかが、水道事業の災害対策における課題とも言えます。
 令和元年度の『水道統計』に基づくと、全国1421の水道事業体全体で第三者委託、あるいはそれ以外の委託等を通じて、技術者の増員を図っている水道事業体は207団体、14.57%程度です。第三者委託が充分に普及していないのが現状であり、被災時における早期復旧のためにも公的部門から民間部門への熟練技術の継承を行うことが必要です。
 水道事業の民営化、あるいは業務の民間委託は企業が採算を重視する以上、過疎地域の切り捨てに繋がることが懸念されてきました。人口減少社会に直面する経営は公的部門、民間部門に関係なく、同じ課題を抱えています。したがって、民間委託は単なる経営の効率化や競争原理に基づく成長促進戦略だけでなく、災害復興のための人手不足を解消するための手段として見直されるべきです。
 広域化や民間委託を伴う災害のリスクプールも重要ですが、最終的には被災団体への補償やそれに伴う財源確保も政府は考える必要があります。偶発的、あるいは人為的に関係なく、災害に伴う公的支援としての補助金給付は公共施設の原形復旧が原則であるものの、形状、寸法、材質を変えて従前機能の復旧を図ることや効用の増大も図ることも可能となっています(注1)。再度の災害に耐え得るインフラ整備の実現が可能となりますが、どの程度まで機能の復旧や効用増大を認めるかは難しい判断と言えるでしょう。
 コロナ禍で財政が厳しい状況を踏まえても、国家の補助金給付は慎重にならざるを得ません。過疎地の道路建設を中心としたバブル期の過剰投資が問題となる一方で、各自治体は様々な公共施設を建設改良するための基金も積み立てなければならないのです。

(注1)国土交通省「災害査定の基本原則─災害復旧制度・注意点と最近の話題─」3頁、
https://www.zenkokubousai.or.jp/download/reiwa_nittei07.pdf(最終アクセス2022年3月30日)を参照した。

(執筆:田代昌孝)

日々是総合政策No.259

家事労働を考える(5)-家事労賃控除について

 今回は、スウェーデンの家事労賃控除(以下、RUTと略称)を紹介します。RUTは、政府が指定した家事サービス、たとえば、清掃サービスを市場から購入すれば、その価格の労賃部分の50%を、購入者に税額控除(所得税の還付)というかたちで補助するものです。
 家事サービスの価格が5千円で、そのうち労賃が4千円の場合、税額控除額は2千円となります。家での清掃を業者に依頼すれば、所得税を2千円減らせるわけです。つまり、家事サービスのアウトソーシング(外部者への発注)促進策です。
 RUTの特徴は、市場からの家事サービス購入を促進し、家事労働を直接減らす点にあります。スウェーデンをはじめ多くの国で、女性の方が家事を長く行っていますから、RUTは女性による家事の削減を通じて、その市場労働の増大を期待できます。
 本コラムNo.254で述べた家事労働の男女分担策では、家計の家事労働時間を一定にして、男性の市場労働の減少-男性の家事の増加-女性の家事の減少-女性の市場労働の増加-を狙った方策でした。RUTの方が直接的ですね。
 政府が指定している家事サービスは、清掃・雪下ろし・洗濯・庭木の手入れ・子供のケア(宿題・学校への送り迎え補助)・子供以外のケア(銀行や病院等への付き添い)などです(注,45-46頁より)。
 RUTを利用できるのは、18歳以上で稼得所得のある個人です。稼得所得は労働所得(自営業者の所得も含む)だけでなく、年金など課税される社会保障給付を含みます(注,46頁より)。
 2017年には、RUTの利用者数は20歳以上人口の11%、女性の購入者が全体の61%、サービスのなかでは、清掃が、サービス全体の総利用時間数の79%を占めています(注,62頁,66頁,72頁より)。

(注)Statens Offentliga Utredningar,SOU [2020:5] Fler ruttjänster och höjt tak för rutavdraget.

(執筆:馬場義久)

日々是総合政策No.258

自然災害とその復興課題について(4)

 日本の災害復旧で重要な役割を担うのは地方自治体です。各地方自治体は独自の「地域防災計画」を作成しながら、自助・共助・公助に基づく防災や危機管理を試みています。新型コロナの感染拡大に伴い、国も様々な支援を施した結果、財政は非常に厳しい状況です。各地方自治体は独自の防災や危機管理による自助、さらには、発災時における機動力確保のための連携協定の締結による共助を中心に災害対策を行います。そのうえで、被災時には公的支援による公助により早期の災害復旧を試みることになります。
 水道事業でも日本水道協会の指導に基づき、様々な地域で幾つかの水道事業体が合同で防災訓練の実施を行うケースがあります。これまでの広域化と言えば、規模の経済や範囲の経済が具体的な例として挙げられるように、歳出の効率化を目指すための手段として考えられてきました。
 しかし、より最近では偶発的な災害に備えたリスクプールとして、広域化が注目されるようになっています。今後は各事業体、あるいは自治体間でのインフラの整備状況に関する情報共有が重要です。さらに、老朽化した施設の更新投資は減価償却費を増加させ、水道財政を圧迫します。老朽化した施設の把握、たとえば水道管路等の布設状況を各水道事業体は正確に把握しなければなりません。インフラの更新投資が滞る過疎地域を中心に、全国レベルでの様々な公共施設の管理や運営が喫緊の課題と言えるでしょう。
 都市部ではテロ対策等も含めて、新たな危機管理が求められるようになってきています。住宅密集地では大規模災害が予測されるだけに、各事業体や自治体は協調を通じて危機管理を行うと同時に、防災に必要な住民への注意喚起や呼びかけが重要となっております。
 水サービス供給の危機管理や防災を広域的に実施するために、各事業体は様々な協定を締結します。各事業体は県内や県外の他事業体だけでなく、応急復旧業者や外郭団体・OBとも協定を締結しているものもあります。しかし、日本水道協会編『水道統計(令和元年度)』に基づけば、全国1412水道事業体のうち293団体、約20.75%は協定を締結出来ていないままとなっています。発災時における人手不足を解消するためにも、円滑な協定の締結が今後の課題となるでしょう。

(執筆:田代昌孝)