日々是総合政策No.103

相手の立場に立って考える(2)

 今から50年前のこと。生徒のほとんどが大学受験をする県立の進学校にいた私は、硬式野球部に所属していたせいか、受験勉強には熱がはいらなかった。否、野球部に入っていたことを言い訳に受験勉強を怠っていたといったほうが良いかもしれない。食べ物と同じく、科目に対しても好き嫌いの激しかった私の成績は、だいたい「中の上」だった(英数社は良かったが、国理は良くなかった)。
 当時の高校では、男子は制服制帽、丸刈りであった。他の高校では丸刈り廃止の動きはあったが、わが高校は県内で最も歴史があり、良くも悪くも保守的な学校であり、私は3年間を通じて丸刈りで通した。
 あるとき、また聞きで、ある進路指導の先生の指導の仕方を耳にした。その指導方法はこうだった。「君は大学名で大学を選ぶのか、それとも専門分野で大学を選ぶのか」を尋ね、「大学名」と答えた生徒には、その大学で一番偏差値の低い学部学科を受験せよと指導し、「専門分野」と答えた生徒には、偏差値が高くて合格可能性が低い大学でなく、偏差値がその大学よりもかなり低くて、合格可能性がほぼ100%の大学を受験せよと指導したという。
 ついでながら、受験指導の教員は、難易度の高い私立の早慶よりも、難易度の低い地方の国立大学の受験を優先し、指導する生徒のうち国立大学に何人入ったかを自慢していた。早慶やMARCHはすべての国立大学よりも劣る存在として蔑視されていた。何年か前に、別の県立高校を訪問した際にも、受験指導の教員が同じような指導を自慢していたことに驚かされた(その教員は地方の国立大学出身だった)。
 こうした指導は、相手の立場に立った有益な指導に見えるが、実際には自分の価値を相手に押し付けるものでしかなかった。県で最も古い県立高校で長年受験指導を行ってきた先生の強圧的な言葉で、その権威を振りかざしての発言だった。
私はこの指導方法を聞いて非常に腹が立った。受験指導の先生に腹が立ったのではなく、先生の話を黙って聞いて帰ってきた生徒に対して腹が立った。「アドバイスはうれしいが、自分の進路は自分で決める」となぜ答えなかったのか、と。今も私の考えは変わらない。

(執筆:谷口洋志)

日々是総合政策No.102

うそと真実

 あなたは「うそ」をついたことがありますか?
 小さい頃、外から帰って手を洗ってからおやつを食べるように言われて、洗ってないのに「洗ったよ。」と言ったことはないでしょうか?宿題をしていないのに、終わったことにして遊びに行ったことはないでしょうか?大体の人は何かしら「うそ」をついたことがあるのではないかと思います。
 では、なぜ人は「うそ」をつくのでしょうか?小さい頃の自分を守るうそとは違い、大人になるにつれ、うそに対する意識は変わってくるようです。学生に聞いたところ、うそをついてはいけないという意識はあるものの、「他人を傷つけない」ためにつくうそは、あったほうが良いと思っている人がほとんどでした。
 では、企業についてはどうでしょう?企業は、利害関係者を傷つけたくないという理由で、うそをつくことは認められるでしょうか?
 証券取引所に上場している法人は、企業の決算書である有価証券報告書に「うそ」の記載をすると、金融商品取引法上の有価証券報告書虚偽記載罪で、7億円以下の罰金が課されます。上場していてもいなくても、「うそ」をついた株式会社の取締役等は、会社法の特別背任罪に問われます。
 企業会計原則一般原則の最初に「真実性の原則」があります。「企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。」と書かれています。この企業会計原則とは、「必ずしも法令によって強制されないでも、すべての企業がその会計を処理するに当って従わなければならない基準」であるとその前文に謳われているのですが、企業のうそ、すなわち粉飾決算(window dressing)は枚挙に暇がありません。粉飾決算については、次回また考えてみたいと思います。

(執筆 渡部美紀子)

日々是総合政策No.101

ふるさと納税について思っていること

 平成26年度以降、ふるさと納税受入額は急増し、平成30年度には約5,127億円となりました。一方、過熱する返礼品問題も大きな問題として取り上げられています。
そのきっかけとなったのは、平成27年度税制改正における「ふるさと納税制度の特例控除額の倍増」と「ワンストップ特例」の導入と言われます。当時、筆者は総務省の自治税務局長、つまり、この制度の事務方の責任者でした。そうした立場から、ふるさと納税制度をめぐる様々なことについて、この場をお借りして、現時点でのコメントを申し上げたいと思います。それは、一言で言えば、「内心忸怩たる思い」という言葉に尽きます。
 ふるさと納税は、当時から高額納税者にはお得な(比較的富裕な方には利用しなければ損な)節税策としての認識が広がっていました。そうしたことも背景にしながら、地方自治体間の返礼品競争が過熱となることの萌芽が既に現れ始めていました。
当時の同僚や優秀な部下諸君とも、いろいろなことを調べ、何度も何度も議論を行い、その後に起こる過熱な返礼品競争もある程度予見し、懸念していました。しかし、事務方の責任者である私の自らの力不足により、関係者の十分な理解を得ることができず、結果として、皆が納得できるような有効な対応策を講じることができませんでした。
 ふるさと納税をめぐる返礼品問題の混乱は、それにより招いた事態であるという面があることは否定できない、という認識でおります。
 自治体関係者で大変な苦労をされた方や税務現場の職員等で不愉快な思いを感じられた方がおられるだろうと思います。
 ふるさと納税について、様々なことを耳にするたびに、この混乱がある程度予見できたにも関わらず十分な対応策を講じられなかったことについて、当時の事務方の責任者としての責任を感じており、忸怩たる思いをしております。
 現状については、現在の担当者がいろいろと苦労しているところと思います。当時、この問題の事務方の責任者の立場にありながら有効な対策を講じられなかった者にどの程度コメントをする資格があるのか、という思いもありますので、これ以上のコメントは差し控えたいと思います。

(執筆:平嶋彰英)

日々是総合政策No.100

日々是総合政策100回を記念して

 多くの方々のご支援により、今回で「日々是総合政策」も100回目を迎えることができました。ご執筆くださったフォーラム・メンバーと読者の皆様に、心よりお礼を申し上げます。
 このフォーラムの目的はWEBサイトに記載の通りですが、代表理事として期待していた副次効果の一つに、各メンバーに次世代の社会を担う中高生はじめ若い人々へ自分の伝えたいメッセージを発信していただくことがありました。
 このために、「日々是総合政策」では、総合政策の基本的な考え方や日々の暮らしの中で考えたことや各々の研究成果などを、メンバーに中高生にも分かるような形でエッセイを執筆していただいています。できるだけ中高生にも分かるように書くことは、執筆者自身が政策や日々の暮らしについて何をどのような言葉で伝えれば次世代に自分の考えを分かってもらえるのか、を考えるきっかけになります。
 また、「子の恩」といった効果もあるかもしれません。親(大人世代)は、子(子ども世代)がいて初めて親としての自覚をもち、子が正しいと考えることに反する行動を取りにくくなります。一人の時には横断歩道を渡らない大人でも、子どもと一緒の時には子どもを意識して横断歩道を渡るようになったり、子どもが節水や節電など環境配慮行動をしている姿をみた大人は自分もそうした行動を取るようになったりします。そこで、日々是総合政策のエッセイは、中高生にも分かるように執筆していただいています。
 私としては、執筆者の皆さんが日々是総合政策に掲載されたエッセイを英文にすることにより、日本社会だけなく地球規模でも次世代を担う中高生はじめ若い人々に、各々のメッセージを伝えていただきたいと考えています。
 さらに、これまでのエッセイをお読みくださった方々へのお願いですが、身近の若い人々にも読んで欲しいとお考えのエッセイがありましたら、是非とも一読するようにお勧めください。そうしたことを通して、読者の方々に結節点としての役割を果たしていただければ、この日々是総合政策の存在価値をさらに高めることができると思います。
 今後とも、「日々是総合政策」へのご支援を宜しくお願いいたします。

(執筆:横山彰)

日々是総合政策No.99

累進性・逆進性と税収の安定性

 累進所得税は所得Yに占める税Tの割合、すなわち、平均税率T/YがYの高いほど上昇する税でした。このことは、累進所得税においては、
 ΔT/ΔY >T/Y (1)
の成立を意味します。左辺はYが1円変化した時にTがどれだけ変化するかを示し、限界(所得)税率と呼びます。累進所得税では限界税率>平均税率となります。その理由は、一般に平均が増加するためには限界が平均を上回る必要があるからです。たとえば4科目受験した時点での平均得点を80点とします。もう1科目受験した後、すなわち5科目を受験した時点での平均得点が80点を超えるためには、5番目の科目の得点(限界)が80点(平均)を超えなければなりません。
 さて(1)から、
 ΔT/T >ΔY/Y (2)
が成立します。なお、ΔTとΔYがマイナスだと(2)は変化率の絶対値の大小を表します。
いま、Yを一国の国内所得、Tを一国の累進所得税収と定義しなおすと、(2)は所得税収の変化率>国内所得の変化率を示します。経済成長やインフレによりYが増加するとそれだけでも税収が増加するのに、平均税率も上昇するのでTの増加率>Yの増加率となります。逆にデフレや不況のためYが減少すると、Yの減少に平均税率の低下が加わりTの減少率>Yの減少率となります。つまり累進所得税は安定的な税収確保が苦手なのです。
 では、所得に対して逆進的な消費税はどうか?逆進的だとT/YがYの増加とともに低下するので、(1)の不等号が逆になり(2)も
 ΔT/T <ΔY/Y (3)
と変り、不況期の消費税収の減少率<Yの減少率となります。消費税が逆進的になるのは、所得の高低にかかわらず必要な基礎消費があるからです。よって、Yが減少する不況期でも、Yに依存する消費に対する税だけが減少するため(3)が成立します。基礎消費への税が税収確保に貢献するのです。理論的には消費税は不況に強い税です。消費税のこの長所は福祉国家にとって重要です。社会保障は不況を理由に大幅には減額できないからです。

(執筆:馬場 義久)

日々是総合政策No.98

精神的備蓄-黒川和美先生の思い出-

 霞が関中がうなされたPPBS(注)の熱も冷めた頃、農林水産省の担当部署であるシステム分析室で、法政大学助手だった黒川先生と知り合った。当時の農林水産省はコメの生産調整、政府買上げ米価引上げ、経営規模拡大の行き詰まりを抱え、日々批判を受けていた。私は灌漑などの土木事業を専門とする技術官僚(技官)で、国の助成による灌漑事業などへの影響を心配したが、先輩諸氏からは「農業は大切だ」位しか返ってこない。先生の公共経済学の視点は新鮮だった。
 「アフリカ東岸で使われている“スワヒリ語”で話してもダメだ。広く理解されるには“英語”でないと通じない。」と言われたことがある。霞が関(広く国民)の“英語”は法学や経済学ではないか。自分のライフワークの根源を知る旅には“英語”の習得が必要だ。思い立って、黒川先生を講師に半日出勤だった土曜日の午後に若手10人程度が集まって1回1人1000円会費で経済学の勉強を始めた。先生が素人質問に丁寧に答えられるので、毎回2時間が4時間になり、さらにビールを飲みながら役所の会議室で夜遅くまで続いた。雑誌への投稿や講演もお願いして、“英語”教育をして頂いた。
 そんな中で、聞きかじりの理論を借用したつもりで、「日本人は国際水準と比較して常に高価なコメを買っているので、もし国際市況が悪化してもコメを買うだけの心構えがすでに出来ている。一種の精神的備蓄ではないか。」と主張したら、先生は雑誌に紹介して「日本が高価格に対して最も精神的弾力性が高い」と解説し、長期的視点で別の視点から考える大切さを説いた。後日、各省庁の集まる会議で先生が精神的備蓄論を紹介したら、皆がその通りと云ったそうである。霞が関の役人は常に社会的政治的な安定を考えている。
 それから間もなくして第2次臨時行政調査会による行政の徹底的な見直しが始まった。あの時のメンバーが呼び出された。黒川学校で習った公共経済学を“英語”だと信じて、批判に対する反論も自己批判もした。あれから40年。黒川学校は私の役人人生で“精神的備蓄”だったのかも知れない。

(注)planning-programming-budgeting systemの略。1960年代に米国で採用された財政の管理を科学的にして限られた予算で最も効率よく目的を達成するための制度である。

(執筆:元杉昭男)

日々是総合政策No.97

地方創生の現場から(下)

 前回のコラムでは、第2期の総合戦略の策定作業が、現在進行中であることを説明しました。今回は「地方版人口ビジョン」に絞って、課題を述べたいと思います。
 長期的な人口増減は、出産可能な年齢の女性数に大きく影響を受けます。仮に出生率が高くても若年女性が地域外へ流出してしまえば、地域内で生まれてくる子どもは減少するからです。日本創生会議が2014年に発表した「消滅可能性都市」とは、今後30年間で20-39歳女性人口が半分以上減少する自治体のことです(注1)。20-39歳女性が注目される理由は、実際に95%程度の子どもがこの年齢の女性から生まれているからです。出生率が1.4と低く、20-39歳になる頃までに3割程度の人口が地域外に流出すれば、20-39歳の女性人口は親世代の半分程度になります。消滅可能性都市とは、まさにこのような自治体が想定されており、全自治体の「半分」が該当するとされたのです。
 第1期の「地方人口ビジョン」に示された人口の「将来展望」をみると、将来の総人口をより高く維持することが重視されたことがわかります。一方で、一部の先進的な自治体を除いて、将来の若年女性人口は完全にブラックボックスになっています。
 各自治体が将来人口を推計する場合には、将来の出生率と社会増減数の前提を自ら置く必要があります。将来の総人口を高く維持しようとすれば、必ず無理な前提が置かれ、そのしわ寄せが特定の年齢層の人口に不自然な形で及びます。無理な前提で、自治体の将来人口を実際に推計してみると、「将来展望」が実現した場合、現状よりも将来のほうが若年女性数も出生数も多くなります。このことから、多くの自治体の「将来展望」が実態からかけ離れたまま見過ごされ、形骸化していることが容易に想像できます。
 人口対策は、今日それを担う人たちの多くが2040年には責任を負う立場にないため、後回しにされがちです。2040年に責任ある立場にいる今日の若者の多くが、政治にも地域の未来にも関心がないことがこれに拍車をかけていると感じます。地域の現場で抱く懸念は、このように地域の人々によって人口対策が形骸化されてしまうと、地域で芽吹いた新しい動きまで台無しにされるのではないか、ということです。今日の行動が地域の将来を決めます。若い人たちにも将来への投資を期待したいと思います。

(注1)日本創生会議「ストップ少子化・地方元気戦略」(閲覧日:2019年10月31日)

(執筆:鷲見英司)

日々是総合政策No.96

民主主義のソーシャルデザイン:権力の源泉

 今週(11月20日)に、安倍晋三首相の「通算」の在職日数が2887日となり、これまで憲政史上最長の通算在職日数であった桂太郎氏を抜きました。「通算」の在職日数なので、2006年9月から2007年9月までの第1次安倍政権の在職日数も含めた日数ですが、「憲政史上最長」という記録は、安倍政権の大きなレガシー(遺産)となり得ると言えます。ちなみに、「連続」の在職日数では、安倍首相の大叔父である佐藤栄作氏が持つ2798日が最長で、安倍首相が、この記録を塗り替えるのは、来年の8月24日、東京パラリンピック開会式(8月25日)の前日になります。
 ここで「安倍首相は、なぜ、これだけの長期政権を維持することができているのか」という疑問を検証することは、統治論としても、次代の政治家、後世の政治家にとっても、非常に有意義な示唆を提供することになるでしょう。
 その評価は分かれるところですが、結論から言えば、権力の行使を通じて、永田町と霞が関の両方をうまくガバナンスしてきた、ということに尽きるのではないでしょうか。
 選挙制度が中選挙区制から小選挙区制に移行する中で、永田町における権力の大きな源泉となったものとして、党の「公認権」が挙げられます。もちろん、無所属でも、小選挙区で当選することができる強い候補者もいます。しかし、多くの候補者は、党からの公認を得られず、その支援も無く、さらに言えば、党の公認候補が対抗馬として擁立されてしまえば、小選挙区で当選することは難しくなります。党の「公認」を得るためには、党の方針に逆らうことができません。これにより、「党高閥低」を生み出し、派閥の力を弱めることにつながりました。
 一方、権力の源泉としては、「公認権」は、首相が持つ実質的な「解散権」とセットになることが必要不可欠です。それをセットで初めて使ったのが、小泉純一郎元首相の下での「郵政解散」であったと言えます。
 「いつ解散するかわからない」。安倍首相が憲法改正を政権のレガシーとするのであれば、来年のオリンピック・パラリンピックを待たずに、衆議院を解散し、総選挙に打って出る可能性はゼロではありません。

(執筆:矢尾板俊平)

日々是総合政策No.95

“It’s the economy, stupid!”

 The above is the phrase Bill Clinton used in the presidential campaign against W.H. Bush in 1992. Clinton’s campaign advantageously used the economic recession prevailing then in the United States. He succeeded in winning the election. Since then, “it’s something, stupid!” has become part of American political culture. “It’s the deficit, stupid,” for instance.
 This episode indicates the reality of a clear connection between politics and the economy, which is the topic of this column. Since public policy is produced through political processes, for a better understanding of public policy, it is crucial to understand the relationship between the economy and politics. The PPE programs in England and America emphasize such an approach. PPE represents philosophy, politics and economics. I wish to follow such an approach in my columns.
 History of political economy shows that economic activities influence political actions. F.D. Roosevelt‘s “New Deal” in the 1930s was in response to the Great Depression. In the twenty first century, the governments in advanced economies will exert greater efforts to protect the environment and to provide even more government health care benefits to its citizens.
 On the other hand, one cannot study economic policy without taking into account political influences, and one cannot completely understand politics without comprehending economic influences. Government policies on unemployment compensation, the minimum wage, health care, and the level of national debt are all the result of political decisions that affect the economy. Ask yourself why Japan has a higher national debt than the U.S. or the Republic of Korea.
 Then, how are political decisions made? Public choice or benevolent despot? In democracies, government decisions are made by some collective decision-making procedure; usually by elected representatives. The purpose of public choice and public finance is to understand how voters’ choices are translated into economic effects. One example in public choice is the median voter theorem in majority rules. However, our understanding of one-party political systems, such as in China, is poor.
 Society consists of conflicting interests. And the result of public choice better be optimal or efficient in the Pareto sense. (See No.1 in this forum for Pareto efficiency.) One impediment to efficient decision-making is that policy makers may have no good way of measuring the citizens’ demand for the public good or government service. They may not have enough information to do so. The government sector uses a huge portion of the nation’s resources. Even in a market-oriented country like the United States, the government sector is one third of GDP. Considering the importance of the size, voters’ understanding of the political issue is crucial for an efficient outcome.
 Politics involves complex exchanges that compound already complicated market exchanges. While study of the market is concerned with efficiency, the goals of public policy in a democratic society include equity as well as efficiency. Most people put a high value on fairness. As a result, a policy may move away from an optimum. Public policy has to answer questions like: what is each person’s fair share of the tax burden? However, what is fair is a value judgment. In this effort, people first should agree on the underlying facts. Then there is some hope. Although there may be conflicting interests, there are many shared values on which the populace can find common ground.

(執筆:Yong Yoon)

日々是総合政策No.94

「公」に対応すべきこと:東京2020と公共交通機関の多言語対応から考える

 訪日外国人旅行者数が2018年に初めて3000万人を突破し、東京でオリンピックを迎える2020年にはさらに多くの国や地域から大勢の外国人が日本を訪れると予想されている。そのため公共交通機関等には多言語対応が求められ、たとえば東京メトロの車内表示は4か国語(日・英・中・韓)で対応している(Tokyo Metro News Letter 2019年3月 第73号)。
 この背景には2014年に観光庁が公表した「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」がある。駅名等の表示は「日本語・英語」の併記を基本ルールとしつつ、英語以外の表記の必要性が高い場合は「中国語・韓国語・その他」の表示を求めている。また、スクロール・切替等により外国語を併記する際は「伝えるべき情報量、外国人の利用実態等を考慮し、適切な内容・頻度・言語でこれを実施することが望ましい」と規定している。
 東京メトロの車内表示は次の停車駅が日・英・中・韓の順に約3秒ずつ表示され、同様の案内は国内の鉄道でよく見かけるようになった。この問題は、表示言語がわからない乗客には情報が伝わらず、理解できる言語が表示されるまで待たなければならないことだ。先の場合、1つの言語しかわからない人は10秒程度待つことを強いられる。その間に電車を降り損ねるかもしれない。
経済学では待つことにはコストが伴うと考える。機会費用とは、あることを選択した費用はそれを選択しなかった場合に得られたはずの価値に等しい、という概念だ。車内表示の場合、乗客が表示言語を選択しているわけではなく事業者による選択を強いられているので、機会損失や逸失利益と呼ぶ方がふさわしいかもしれない。多言語対応によって便益を得る人がいる一方で、私たちはこうしたコストを強いられているといえる。
 車内表示は一つの画面に表示できる情報量に限りがあり、希少資源の配分の問題に直面する。だが、多言語対応に頼らずとも駅ナンバリングがあるのだし、Google翻訳ならスマートフォンをかざせば瞬時に翻訳できる。「公」に対応すべきことは同時に多数に便益を提供することであり、あとは個々の対応に任せれば良いのである。基本ルールに立ち返り、表示は日本語と英語の併記だけに戻すべきだろう。

(執筆:川瀬晃弘)